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ダンスが生まれる瞬間(英国ロイヤル・バレエ団、イングリッシュ・ナショナル・バレエ団公演から)

May 15, 2017

 

バレエの世界では昔から、コンクールが盛んです。

その中でも学生に人気の高いものは、ローザンヌ国際バレエコンクールと、YAGP(Youth America Grand Prix)でしょう。

そのYAGPで、今年日本から24名がコンテンポラリー・ダンス部門にエントリーしました。

 

まだあまり盛んでないコンテンポラリー・ダンスを日本で定期的に勉強するのは、とても大変だと思いますが、素晴らしいですね。

 

欧米ではコンテンポラリー・ダンスのレッスンを週に2~3回はレッスンしています。その理由を、3月のロンドン出張で間近に見て来ました。

 

1週間の出張の間に、ロイヤル・バレエ団とイングリッシュ・ナショナル・バレエ団のどちらもコンテンポラリーのトリプルビル(3演目上演)をやっていましたが、どちらの劇場も売り切れるほどのお客様で埋まっていました。(ここが実は決定的な違いでもあります。)


イギリスを代表する両バレエ団、日本に引越し公演をすれば、必ず古典作品を上演するバレエ団たちです。それでもイギリスはコンテンポラリー・ダンスに関しては、出遅れていると言われています。ヨーロッパは、もう、そんな感じなんです。

 

ロイヤル・バレエ団は、デイビッド・ドーソン、クリストファー・ウィールドン、そしてクリスタル・パイト。ドーソンとウィールドンの作品はコンテンポラリー・バレエでどちらも以前見たことのある作品でした。

が、何と言っても注目したのはクリスタル・パイトの新作「フライト・パターン」です。


題名のフライト・パターンというのは、鳥の飛び方。1羽の時にも、グループで飛行する時のフォーメーションなどにも当てはまります。

 

そして作品のテーマは「難民」。

パイト自身がこのテーマを表現しきれるのか18カ月悩んだ末に制作を決断した作品でした。

 

パイトは多くのダンサーを使った作品で有名ですが、今回も36名のロイヤル・バレエのダンサーたちが難しいテーマに挑みました。ダンサー達は暗い色のコートに身を包み、寒さと不安に震えるように、身をかがめ身体を左右に揺らし歩きます。

頭に浮かんだのは第二次世界大戦の時にキャンプに収容されていくユダヤ人の人々の列。
うつむき、足元を見つめる空虚な眼差しが、この舞台にもありました。

 

「私たちは、どこへ向かっていくんだろう。」


難民ではなく、その中に自分もいるような、そんな思いがよぎります。

どんなに激しく動きジャンプをしても、絶望を背負った身体に軽さはありません。ジャンプひとつを取っても、こんなに違う表現があるのですね。

唯一の希望はタイトルの「フライト・パターン」。


客席に背中を向けたダンサー達は、腕を横に広げて鳥たちが空を渡るように、ゆっくりと、ゆっくりと腕を上下に動かします。

 

他の振付家の作品でも時々目にする群舞に美しいムーブメントですが、パイトの鳥たちの飛翔は、絶望の中の唯一の夢・希望。「自由」への渇望を感じました。

音楽はポーランド人の作曲家グレツキの交響曲第3番です。
日本では「悲歌のシンフォニー」と呼ばれる、大変有名な曲です。

パイトはこれほど有名な曲を使用することにも躊躇したようですが、やはりこの曲しかなかったんだと思います。

 

テーマ、音楽、振付の全てがひとつになる瞬間を味わってきました。

子を失う母の姿はカースティン・マクナリーが演じました。彼女は自身でもたくさんの作品を振付していて、自分の身体の使い方を熟知しています。凄いダンサーです。(個人的には昨シーズンに引退してしまった、ディードリー・チャップマンでも観たかったな。)


ウィールドンの「アフター・ザ・レイン」のマリアネラとティアゴのデュエットも忘れ難い美しさでしたが、やはり誰の心にも強く残ったのは、今、まさに地球に生きる私たちが直面している問題を提示した「フライト・パターン」だったのではないでしょうか。

 

クリスタル・パイトが次に手掛けるのはスコティッシュ・バレエ団です。

本当に楽しみな振付家です。

 

そして、イングリッシュ・ナショナル・バレエ団(ENB)が披露したのは、ウィリアム・フォーサイス、ヴァン・マーネン、そしてピナ・バウシュの3作品でした。

 

この舞台はENBというバレエ団にとって、本当に大きなターニングポイントになったと思います。

 

タマラ・ロホが芸術監督に就任して以来、よりコンテンポラリー・ダンスの傾向が強くなっていましたが、まさか、まさかピナ・バウシュの「春の祭典」を上演する日が来るとは、誰が予想したでしょう。

 

作品については、もう、それは多くの人が語っていますから、ここには書きません。


裸足のダンサー達は舞台に敷き詰められた土の上を、足を踏み鳴らし、走り、転がって、生贄(いけにえ)の儀式を進めます。

生贄は生娘でないといけません。

胸を片方出し、苦しみもがく、女性の生き様を表現する、体当たりの演技が求められます。

 

成熟したダンサーの技量が必要でありながら、生娘の純粋さを一瞬のストップモーションで出さなければならない、本当に難しい役柄を、身も心もピナ・バウシュのダンサーになり切った、ENBのダンサーが演じていたことに、もう、ただただ感動して帰って来ました。

 

 

「フライト・パターン」も「春の祭典」も、人間の感情をあからさまに出し、観る人の心を騒がせ問題提起をする素晴らしい作品。

 

こういった優れた作品に挑戦できる、ダンサーたちは幸せですね。

日本の優れたダンサー達を有するバレエ団で果たしてこれが実現できる日が来るのでしょうか。

 

日英ダンス協会では、日本でバレエを学ぶ学生さんたちにも、広くコンテンポラリー・ダンスに触れていただきたいと思っています。プロになったらトゥシューズを履かないこともあるということをぜひこの機会に考えていただきたいなと思います。

 

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